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諸の煩悩を取り集めて女人一人の罪とすと云えり。ある経には「三世の諸仏の眼は脱けて大地に堕つとも、女人は仏に成るべからず」と説き給えり。しかるに、この品の意は、人・畜をいわば畜生たる竜女だにも仏に成れり。まして我らは形のごとく人間の果報なり。彼の果報にはまされり。いかでか仏にならざるべきやと思しめすべきなり。
中にも、「三悪道におちず」と説かれて候。
その地獄と申すは、八寒・八熱、乃至八大地獄の中に、初め浅き等活地獄を尋ぬれば、この一閻浮提の下一千由旬なり。その中の罪人は、互いに常に害心をいだけり。もしたまたま相見れば、猟師が鹿にあえるがごとし。各々鉄の爪をもって、互いにつかみさく。血肉皆尽きて、ただ残って骨のみあり。あるいは獄卒、棒をもって頭よりあなうらに至るまで皆打ちくだく。身も破れくだけて、なお沙のごとし。焦熱なんど申すは、譬えんかたなき苦なり。鉄城四方に回って門を閉じたれば、力士も開きがたく、猛火高くのぼって金翅のつばさもかけるべからず。
餓鬼道と申すは、その住処に二つあり。一には地の下五百由旬の閻魔王宮にあり。二には人天の中にもまじわれり。その相、種々なり。あるいは腹は大海のごとく、のんどは鍼のごとくなれば、明けても暮れても食すともあくべからず。まして五百生・七百生なんど飲食の名をだにもきかず。あるいは己が頭をくだきて脳を食するもあり、あるいは一夜に五人の子を生んで夜の内に食するもあり。万菓、林に結べり。取らんとすれば、ことごとく剣の林となり。万水、大海に流れ入りぬ。飲まんとすれば、猛火となる。いかにしてか、この苦をまぬかるべき。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(016)主師親御書 | 建長7年(’55) | 34歳 |