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客色を作して曰わく、後漢の明帝は金人の夢を悟って白馬の教を得、上宮太子は守屋の逆を誅して寺塔の構えを成す。それより来、上一人より下万民に至るまで、仏像を崇め経巻を専らにす。しからば則ち、叡山・南都・園城・東寺、四海一州・五畿七道、仏経は星のごとく羅なり、堂宇は雲のごとく布けり。鶖子の族は則ち鷲頭の月を観じ、鶴勒の流れはまた鶏足の風を伝う。誰か一代の教を褊し三宝の跡を廃すと謂わんや。もしその証有らば、委しくその故を聞かん。
主人喩して曰わく、仏閣甍を連ね、経蔵軒を並べ、僧は竹葦のごとく、侶は稲麻に似たり。崇重年旧り尊貴日に新たなり。ただし、法師は諂曲にして人倫を迷惑わせ、王臣は不覚にして邪正を弁うることなし。
仁王経に云わく「諸の悪比丘は、多く名利を求め、国王・太子・王子の前において、自ら破仏法の因縁、破国の因縁を説かん。その王別えずしてこの語を信聴し、横しまに法制を作って仏戒に依らず。これを破仏・破国の因縁となす」已上。
涅槃経に云わく「菩薩は、悪象等においては心に恐怖なく、悪知識においては怖畏の心を生ず。悪象に殺されては三趣に至らず、悪友に殺されては必ず三趣に至る」已上。
法華経に云わく「悪世の中の比丘は、邪智にして心諂曲に、いまだ得ざるを謂って得たりとなし、我慢の心は充満せん。あるいは阿練若に納衣にして空閑に在って、自ら真の道を行ずと謂って、人間を軽賤する者有らん。利養に貪著するが故に、白衣のために法を説いて、世の恭敬するところとなること、六通の羅漢のごとくならん乃至常に大衆の中に在って我らの過を毀らんと欲して、国王・大臣・
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(002)立正安国論 | 文応元年(’60)7月16日 | 39歳 | 北条時頼 |