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『日蓮大聖人御書全集 新版』全文検索

(002)

立正安国論

 文応元年(ʼ60)7月16日 39歳 北条時頼

 旅客来って嘆いて曰わく、近年より近日に至るまで、天変地夭・飢饉疫癘、あまねく天下に満ち、広く地上に逬る。牛馬巷に斃れ、骸骨路に充てり。死を招くの輩既に大半に超え、悲しまざるの族あえて一人も無し。
 しかるあいだ、あるいは「利剣即是(利剣は即ちこれなり)」の文を専らにして西土教主の名を唱え、あるいは「衆病悉除(衆病ことごとく除こる)」の願を持って東方如来の経を誦し、あるいは「病即消滅、不老不死(病は即ち消滅して、不老不死ならん)」の詞を仰いで法華真実の妙文を崇め、あるいは「七難即滅、七福即生(七難は即ち滅し、七福は即ち生ぜん)」の句を信じて百座百講の儀を調え、あるは秘密真言の教に因って五瓶の水を灑ぎ、あるは坐禅入定の儀を全うして空観の月を澄まし、もしは七鬼神の号を書して千門に押し、もしは五大力の形を図して万戸に懸け、もしは天神地祇を拝して四角四堺の祭祀を企て、もしは万民百姓を哀れんで国主・国宰の徳政を行う。
 しかりといえども、ただ肝胆を摧くのみにして、いよいよ飢疫に逼められ、乞客目に溢れ、死人眼に満てり。臥せる屍を観となし、並べる尸を橋と作す。観んみれば、夫れ、二離璧を合わせ、五緯珠