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されば、国土いたくみだれば、我が身はいうにかいなき凡夫なれども、御経を持ちまいらせ候分斉は、当世には日本第一の大人なりと申すなり。
問うて云わく、慢煩悩は七慢・九慢・八慢あり。汝が大慢は、仏教に明かすところの大慢にも百千万億倍すぐれたり。彼の徳光論師は弥勒菩薩を礼せず。大慢婆羅門は四聖を座とせり。大天は凡夫にして阿羅漢となのる。無垢論師が五天第一といいし。これらは皆、阿鼻に堕ちぬ。無間の罪人なり。汝いかでか一閻浮提第一の智人となのる。地獄に堕ちざるべしや。おそろし、おそろし。
答えて云わく、汝は七慢・九慢・八慢等をばしれりや。大覚世尊は三界第一となのらせ給う。一切の外道が云わく「只今、天に罰せらるべし。大地われて入りなん」。日本国の七寺三百余人が云わく「最澄法師は大天が蘇生か、鉄腹が再誕か」等云々。しかりといえども、天も罰せず、かえって左右を守護し、地もわれず、金剛のごとし。伝教大師は叡山を立てて一切衆生の眼目となる。結句、七大寺は落ちて弟子となり、諸国は檀那となる。されば、現に勝れたるを勝れたりということは、慢ににて大功徳となりけるか。
伝教大師云わく「天台法華宗の諸宗に勝るることは、宗とするところの経に拠るが故に、自讃毀他ならず」等云々。法華経第七に云わく「衆山の中に須弥山はこれ第一なり。この法華経もまたかくのごとく、諸経の中において、最もこれその上なり」等云々。この経文は、已説の華厳・般若・大日経等、今説の無量義経、当説の涅槃経等の五千・七千、月支・竜宮・四王天・忉利天・日月の中の一切経、尽十方界の諸経は、土山・黒山・小鉄囲山・大鉄囲山のごとし。日本国にわたらせ給える法華経は須弥
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(009)撰時抄 | 建治元年(’75) | 54歳 | 西山由比殿 |