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霊山会上の砌には、閻浮第一の不孝の人たりし阿闍世大王座につらなり、一代謗法の提婆達多には天王如来と名をさずけ、五障の竜女は蛇身をあらためずして仏になる。決定性の成仏は燋れる種の花さき果なり、久遠実成は、百歳の叟、二十五の子となれるかとうたがう。一念三千は九界即仏界・仏界即九界と談ず。されば、この経の一字は如意宝珠なり。一句は諸仏の種子となる。これらは、機の熟・不熟はさておきぬ、時の至れるゆえなり。経に云わく「今正しくこれその時なり。決定して大乗を説く」等云々。
問うて云わく、機にあらざるに大法を授けられば、愚人は定めて誹謗をなして悪道に堕つるならば、あに説く者の罪にあらずや。
答えて云わく、人路をつくる。路に迷う者あり。作る者の罪となるべしや。良医薬を病人にあたう。病人嫌って服せずして死せば、良医の失となるか。
尋ねて云わく、法華経の第二に云わく「無智の人の中にして、この経を説くことなかれ」。同じき第四に云わく「分布してみだりに人に授与すべからず」。同じき第五に云わく「この法華経は、諸仏如来の秘密の蔵にして、諸経の中において最もその上に在り。長夜に守護して、みだりに宣説せず」等云々。これらの経文は、機にあらずば説かざれというか、いかん。
今、反詰して云わく、不軽品に云わく「しかもこの言を作さく『我は深く汝等を敬う』と」等云々。「四衆の中に、瞋恚を生じて心不浄なる者有って、悪口・罵詈して言わく『この無智の比丘』と」。また云わく「衆人はあるいは杖木・瓦石をもって、これを打擲す」等云々。勧持品に云わく
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(009)撰時抄 | 建治元年(’75) | 54歳 | 西山由比殿 |